二重国籍ってどんな問題?
※初出時に、蓮舫議員は出生による二重国籍者である旨を記載していましたが、同議員は昭和42年(1985年の国籍法改正以前)の生誕であり、誕生の時には父性血統主義を採用する旧国籍法が適用されていたため、その記述は誤りでした。お詫びして訂正します。
蓮舫議員の二重国籍が明らかになったことについてネット上で議論が盛んになっているようです。しかし、それらを眺めていると、どうにも正確とは評しがたい知識に基づく過激な主張が少なからず存在するように思えましたので、少々整理してみました。
ちなみに、パパは彼女には全然興味がないので、ぶっちゃけどうでもよいというか、正直、青少年健全育成を前面に押し出されたりすると、当サイトは肩身が狭くて仕方ありませんので、個人的には総理にはなってほしくない人のひとりだったりします。ただ、「二重国籍者=日本国民でない」とか「二重国籍者は直ちに代議員たる資格がない」、究極的には「二重国籍者=悪だ」と曲解していると思しき見解が散見されるのは誰にとっても大変不幸な話なので…。
1 国籍法に見る日本国民たる要件
まず、我が国において日本国民たる要件は、日本国憲法第10条の要請を受け、国籍法第2条に次のように定められています。また、第4条から第10条にかけて外国人が帰化できる要件が規定されます。
国籍法 第2条 子は、次の場合には、日本国民とする。
一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき。
三 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。
第八条
次の各号の一に該当する外国人については、法務大臣は、その者が第五条第一項第一号、第二号及び第四号の条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。
一 日本国民の子(養子を除く。)で日本に住所を有するもの
二 日本国民の養子で引き続き一年以上日本に住所を有し、かつ、縁組の時本国法により未成年であつたもの
三 日本の国籍を失つた者(日本に帰化した後日本の国籍を失つた者を除く。)で日本に住所を有するもの
四 日本で生まれ、かつ、出生の時から国籍を有しない者でその時から引き続き三年以上日本に住所を有するもの
蓮舫議員は、17歳の時に、その母・斉藤桂子さんが日本人であることに依拠して日本国民となった(=日本国籍を有することとなった)とされています。同時に、(パパは台湾の戸籍法には詳しくありませんが、調べたところによると)台湾は血統主義(出生地の如何に関わらず、親の国籍を子が取得するという考え方)を採っているため、出生時に台湾人の父の国籍を得て、台湾人でもあった(台湾国籍も有していた)ということです。
つまり、蓮舫議員は、日本国民になった(日本国籍を持つ)と同時に台湾国民でもあった(台湾国籍を持つ)二重国籍者ということになるわけですが、このことが参議院議員たる資格としては問題ではないか、というのが今回の騒動の火種のようです。
では、二重国籍者である者は、我が国においてどのように処遇されるのでしょう?また、何らかの法的義務を負うのでしょうか?
国籍法14条を見てみると、そこには「国籍の選択」と題して、次のように規定されています。
また同法16条においては、「選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない」と規定されています。
国籍法14条
外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。
2
日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法
の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。
国籍法16条
選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。
2
法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失つていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であつても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。
3 前項の宣告に係る聴聞の期日における審理は、公開により行わなければならない。
4 第二項の宣告は、官報に告示してしなければならない。
5 第二項の宣告を受けた者は、前項の告示の日に日本の国籍を失う。
これらによると、まず14条によって「二(多)重国籍者は原則として、22歳に達するまでに自分の国籍をどこにするかについての選択をする義務を負う」とともに、16条により「日本国籍を選択・取得したときは、外国籍を離脱する努力義務を負う」ということになります。
蓮舫議員は17歳の時点で適法に日本国籍を取得していますから、その際に、日本と台湾の二重国籍者になったと思われます。従って、それ以後の同議員は、14条の規定により、22歳になるまでに、国籍選択をする法的義務があり、日本国籍を選択した場合には、16条の規定によって台湾国籍を離脱する努力義務を負っていたことになります。
もし仮に、14条及び16条の法定義務が、完全に履行されていたとするならば、国籍法の構造上二重国籍は解消され、日本国籍のみとなっていたはずですから、今も台湾国籍が残っているということは、それらの義務が完全には履行されていなかったということを意味していることになります。端的に言って、14条の義務違反か、16条の努力義務違反のいずれかの違法があった蓋然性は高いです。
しかしその一方、国籍法14条及び16条が、その義務履行違反を日本国籍喪失の要件とはしていないことに留意しなければなりません。国籍法のどこにも、「14条または16条の義務を履行しなければ、直ちに日本国籍を失う」という旨の記述はないのです(ただし、国籍法15条に該当して国籍を失うに至った場合を除きます)。ということはつまり、蓮舫議員は、同法14条または16条の義務履行違反の違法の疑いがあるにしても、日本国民であることは否定されず(=日本国籍を有していて)、ただ、おまけに台湾国籍がくっついているという状態にある人なのです。
2 公職選挙法における被選挙権を得るための要件
また、公職選挙法第10条を見ると、被選挙権について、「日本国民は、…被選挙権を有する。」とだけ規定されています。これは、選挙されるための(候補者となる)要件は「日本国民である」ことだけだという意味であり、同条各号規定の各年齢要件を充足した日本国民(日本国籍を有する者)は誰でも被選挙権を有するということになるのです。
続く11条及び11条の2には、選挙権及び被選挙権の欠格要件が規定されていますが、そのどこにも二重国籍者の選挙権及び被選挙権を制限する規定は見当たりません。
従って、「二重国籍だから日本人でない」という極論はもとより、「二重国籍者だから被選挙権がない(代議員となる資格がない)」とか「国籍の選択をしていないから日本国籍は無く、被選挙権がない(代議員となる資格がない)」とかいった意見は正確な主張とは評し難いものがあります。
3 二重国籍であることの違法性
次に、二重国籍であることの違法性を考えてみましょう。ネット上の議論を見ていると「二重国籍は直ちに違法であり、法に反する性状にある者は代議員たる資格がないから、辞職すべきである」という意見が多く見られます。はたして現行法上、二重国籍は直ちに違法の評価を受けるのでしょうか?
まず、国籍法第14条及び16条との関係については、先に見た通り、法定義務違反の違法の疑いがあります。しかし、その違法は日本国籍喪失の要件ではないため、蓮舫議員が日本国籍失うわけではありません。また、公職選挙法10条は、被選挙権の要件として日本国籍を有していること(日本国民であること)と年齢要件しか挙げておらず、かつ、二重国籍者であることを欠格要件にしていませんから、結局のところは、「二重国籍者であるとはいえ、現に日本国民である蓮舫議員は、参議院議員たる資格を、少なくと法律上は有している」という結論に落ち着くことになります。
次いで、国籍取得に関する考え方の観点から見ていきましょう。我が国は国籍の取得について血統主義を採用しています。これは、出生時に、出生地の如何に関わりなく、子は親の国籍を取得するという考え方です。他に、出生地主義という考え方もあり、こちらは、原則として誰が親であるかに関わらず、その国(又は地域)で生まれた子にはその国(又は地域)の国籍を与えるという考え方です。有名なところではアメリカ合衆国などが後者を採用しています。このように、国籍取得(賦与)の考え方には、大きく異なる2つの考え方があり、各国がまちまちに採用していますが、そのことが時に面倒を引き起こすことがあります。
例えば、血統主義の国の国民で、妻は出産を間近に控えている夫婦がいたとします。この夫婦はわけあって出産間近であるにもかかわらず出生地主義を採るアメリカへ渡りました。予定では、出産は帰国後になるはずでしたが、思いがけない早産でその日本人夫婦はアメリカで我が子を出産する事態となりました。この場合、その子の国籍はどうなるでしょう?
まず、日本国民から生まれましたから、血統主義に従ってその子は日本国籍を取得します。ところが、その子はアメリカで生まれましたから、出生地主義によりアメリカ国籍も同時に取得します。つまり生まれながらの日米二重国籍者ということになるのです。ちなみに、日本は父母両系血統主義を採るので(父系血統主義ではないので)、父母のいずれが日本国民であるかは問われません。父か母のいずれかが日本国民であれば、その子は日本国籍を取得します。
(ところで、いくらなんでも、一時滞在者に過ぎない者の子どもにアメリカが国籍を与えることなんてないだろうと考えがちですが、アメリカは無差別の出生地主義を採っているので、旅行者の子だろうが、密入国者の子だろうが、アメリカ合衆国の地で生まれれば、アメリカ国籍が賦与されます。そのため、自分の子にアメリカ国籍を与えるためにアメリカ国内の病院で出産だけを行ったり、アメリカ在住の代理母に代理出産させたりということがビジネスにまで発展しており、現代社会の病理の深さを物語っていたりしますが、それはまた別の話です。)
この種の二重国籍は、親の所属する国と、子の生まれた国とで、国籍賦与に関する考え方が偶然に異なっていたことが原因で生じるものであり、また、出産は事柄の性質上、親または子の意思で明確にその時宜を管理・統御できるものでもありませんから、その意に反して自国外の地で生み、生まれることになる事態を回避できなかったことについては、親にも子にも一切の責任はありません。この責任をも追及しなければならないとする見解は、我々の一般社会通念に照らして、受け入れ難い主張であることは明らかでしょう。
法(law)に関する議論をする際に心に留めておかなければならないことは、「法(law)は不可能を強いるものではない」ということです。二重国籍の問題は、確かに、本人の何らかの意思又は行動によって生じる場合もあり得ますが、その多くは、先の例に上げた通り、当の親や子にはどうすることもできない外的な要素に起因して生じるのです。
そのため、我が国では、出生による二重国籍は違法とは評価されません。ただそこから生じる不都合を回避・解消するために、国籍法14条において、国籍の選択の義務が規定されているのです。
もし仮に、出生による二重国籍を違法とするのであれば、先の例のような場合に生まれた子は、自らの責に全くよらない事由によって、出生の時から違法な存在に位置付けられることになりますが、それが如何に不当なことであるかは、論を待ちません。出生による二重国籍それ自体が違法でないことは、法的に言って当然のことなのです。「我々が自身の行動(とその結果)に責任を負う根拠は、その行動(とその結果)が自らの意思によって決定されたものであるからだ」ということを忘れてはいけません。自らの意思に拠らないことにまで、責任を負わされるいわれはないのです。
(もっとも、過度に厳格な結果責任主義者は別の見解を示すかもしれませんが、「自分(達)の決めたことである故にそれに服従しそれを遵守する」というのは、社会契約の根幹を成す核心的な概念であり、民主的な政治過程を肯定する精髄なので、真っ向からこれを否定するのにはかなり勇気の要ることだと思います。)
この点、蓮舫議員は自己の志望によって、17歳の時に日本国民である母の娘であることに依拠して日本国籍を取得したと言われていますから、その通りだとすれば、出生による二重国籍者の場合と全く同様に最初から適法であったというわけにはいきません。同議員の場合、取得した日本国籍に基づき、適法に日本人となったというためには、やはり、国籍法14条の国籍選択の義務及び16条の定める外国籍離脱の努力義務を完全に履行しておくべきでした。しかしながら、その履行は不完全で、今日に至るまで台湾国籍を残してしまっています。この点については、国会議員でありかつて国務大臣でもあった者が、無罰則の義務・努力義務であるとはいえ、法定義務を完全に履行しなかったのは不適切であり、資質を欠くと追及されても、無理からぬところです。なぜ、法定義務が完全に履行されなかったのか、その経緯を明らかにする責任を果たすべきです。とはいえ、繰り返しになりますが、この違法は日本国籍を失わせるものではありません。そして、日本国籍があるということは公職選挙法上、被選挙権は適法に獲得されます。従って、蓮舫議員が現職の参議院議員であることを違法と評価することは、法律の議論としてはどうしても、きわめて難しいと言わざるを得ないのです。
4 結論
以上、日本国民たる要件、公職選挙法上の被選挙権の要件、及び二重国籍者の違法性の観点から考察を行ってきました。それらを総合して結論を取りまとめれば、蓮舫議員は、少なくとも手続的には適法に日本国籍を取得しているので、二重国籍者であることそれ自体は違法ではなく、ただ国籍法14条及び16条の法定義務・努力義務の履行につき何らかの違法があったことが疑われるが、その違法は日本国籍喪失の要件とはされて「いない」ので、同議員は現に日本国民であり、公職選挙法10条の規定に照らせば、同法11条及び11条の2に規定する欠格事由に該当するのでない限り、正当かつ適法な被選挙権を有し、故に、同議員が二重国籍者であるとの理由で現職の参議院議員であることは許されないとする主張には、現実的妥当性の有無は格別、法律上の根拠はないということになります。
あとは、国籍法14条の義務及び16条の努力義務の履行の瑕疵に関する責任を、国民がどう考え、どのように追及するかという問題が残ることになるでしょう。「大小多寡にかかわらず違法はあくまで違法」の主張を貫徹するのも一計です。ただし、この違法には、参議院議員たる要件に直接影響する要素がないので、せいぜい、「交通違反で切符を切られた議員は、道路交通法違反という違法を犯したのだから辞めろ」ぐらいの説得力しか持ち合わせていません。もし攻めるなら、「二重国籍者は場合によって他国利益を優先することがあるので議員として不当だ」と主張して、違法性ではなく現実妥当性に訴える方が効果的といえます。
5 結語に変えて
ともかくも、国籍法の趣旨や血統主義の考え方が誤って認識され、「出生による二重国籍者であることそれ自体が違法である」とか、「二重国籍者は純粋の日本人ではないので、代議員たる資格を本質的に持たない」といったような誤解が蔓延しないことを願ってやみません。なにより、二重国籍それ自体、特に出生による二重国籍者が悪であるなどということは断じてありません。二重国籍であることが悪なのではなく、法の定めに従って二重国籍を解消しないことが問題なのです。
くどいようですが、二重国籍者であっても、日本国籍を有する限り、国籍法上の、さらに言えば日本国憲法上の保障が主として及ぶ、日本国民なのであり、また、少なくとも現行の公職選挙法は、日本国籍を持つ者の被選挙権を、二重国籍であることを理由に否定してはいないのです。もし、現状を不当であると考えるならば、二重国籍者の人格を攻撃するのではなく、公職選挙法改正を議論すべきです。現行公職選挙法が、被選挙権の欠格要件として二重国籍者であることを含めていないのはなぜか、という視点から考察してみることも、まったく無意味ではないでしょう。
(ちなみに、疑義のない日本国籍を有する者であっても、例えば禁固以上の刑に処せられた場合等は、その刑の執行を終えてから所定の期間が経過するまでは、被選挙権を留保されます:公民権の停止、公職選挙法11条、11条の2。二重国籍に着目するのも面白いですが、日本人であれば誰でもいい、というわけでもない点にもう少し注意が払われるとよいかもしれません。実は、公民権停止を食う原因は、以外にも、公職選挙法違反であることが非常に多いのです。政治家然として国家の利益を語る者すべてが、常に法の求める被選挙権者として適格であるとはかぎらないということなのかもしれませんね。)
誰が相応しくないかを議論するより、誰を信任し、誰に投票するかを自問することの方がよほど有意義なことのように思えます。
2016.09.13 Tue.
追記
上記の記事を公開した後、「国籍法14条や16条にだけ言及して、同法11~13条及び15条について説明しないのは不公正であるだけでなく、読者に余談と誤解を与える虞が多分にあって好ましくない」とのご意見を頂きました。確かに、まったくもってその通りなので、以下に追記します。
まず、国籍法11~13条には、以下のように、日本国籍を喪失する場合が規定されています。
第十一条 日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。
2 外国の国籍を有する日本国民は、その外国の法令によりその国の国籍を選択したときは、日本の国籍を失う。
第十二条 出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは、戸籍法
(昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。
第十三条 外国の国籍を有する日本国民は、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を離脱することができる。
2 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を失う。
上記各条各項の規定に該当する事実の存在が明らかとなれば、日本国籍を喪失します。そして、日本国籍を喪失すれば、当然に公職選挙法上の被選挙権の獲得要件を充足しないことになりますから、議員ではいられなくなります。よって、議員資格の有無を法律上の問題として追求するのであれば、「国籍法11~13条の規定のいずれかに該当する事実が証拠をもって確認された」と主張する方法があり得るでしょう。
翻って言えば、蓮舫議員は、自身の主張が正当であるというためには、自身の経歴のいかなる期間においても国籍法11~13条の規定に該当する国籍喪失の原因となる事実はないことを、証拠をもって明らかにしなければなりません。同議員は今まさにこの点についての説明責任を負っているということになります。
次に、国籍法15条について。ここには、国籍の選択について法務大臣が催告し得る旨が規定されています。
第十五条
法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第一項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択をすべきことを催告することができる。
2
前項に規定する催告は、これを受けるべき者の所在を知ることができないときその他書面によつてすることができないやむを得ない事情があるときは、催告すべき事項を官報に掲載してすることができる。この場合における催告は、官報に掲載された日の翌日に到達したものとみなす。
3
前二項の規定による催告を受けた者は、催告を受けた日から一月以内に日本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う。ただし、その者が天災その他その責めに帰することができない事由によつてその期間内に日本の国籍の選択をすることができない場合において、その選択をすることができるに至つた時から二週間以内にこれをしたときは、この限りでない。
要するに、国籍法14条の国籍の選択をしないままでいる者に対して、法務大臣はその選択をするように促すことができ、その促しを受けて1か月のうちに日本国籍を選択しなければ、日本国籍を失うという規定です。
ネット上の議論では、法務省のサイト上の二重国籍に関する記述がしばしば引用されているようですが、法務省のサイトの記述だと、この部分が、「国籍法14条の国籍の選択をしなければ、自動的に日本国籍を失う場合があり得る」というふうに読めるように書かれているのが少々やっかいです(もちろん、国語的には法務省サイトの記述は全く間違っていません。慎重に読めば、法文と同じことを述べています)。しかし、確定した法文は上記のとおりです。そして、それによれば、「14条の義務不履行即国籍喪失」ということではなくて、「14条の義務不履行+15条の催告後にも日本国籍を選択しなかった場合に国籍喪失」ということですから、その点をしっかり確認した上で、議論に臨む必要があると言えるでしょう。
さて、そこで問題となるのが、蓮舫議員について国籍法15条に該当する催告があり、期限内に日本国籍を選択しなかった事実があるか(あったか)、という点です。
これについては、法務省が沈黙を貫いていることからしても、催告がされた事実は現在までのところない(なかった)と判断するのが至当ではないかと考えます。行政府の機関である法務大臣が、現職の参議院議員に対し、その資格要件に直接関わる催告を行うというのは三権分立の観点から重大な問題を生じる恐れがありますから、単に面倒を避ける意味で沈黙しているだけなのかもしれませんが、過去に催告があったとすれば、その事実を殊更に伏せる必要や意味はないので、やはり、法務省が何も言わないということは、15条の催告は今のところされていない蓋然性が高いということなのだと思います。
もっとも、自己の志望によって日本国籍を取得したにも関わらず、法が要請する義務を完全に履行せず、その結果として今なお二重国籍者であり続けているという事実は、「実は、意図的に二重国籍を維持していたのではないか」との疑いを惹起するのに十分なものがあります。
日本の国益を最優先して立法をすべき立場にあり、時勢によっては改憲の発議さえなし得る立場にある者が、同時に他国民でもあり得たという状態が長く放置されていたことは、国益上諸手を上げて歓迎し得るものでは断じてありません。多様性を重視して二重国籍の日本人の代議員の存在もをも許容するの方が良いのか、それを許容しないことの方がより国益に適うのかについては、慎重な議論が大いになされてしかるべきといえるでしょう。
2016.09.14 Wed.
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